日日是好日『邯鄲の夢』

北九州市若松区のエコタウン内にあるヒューマンブリッジ株式会社NKRC事業所です。

盧生(ろせい)という貧しい青年が一旗揚げようと邯鄲(かんたん)という都へ向け旅をしていた。

 

ある時、昼食を摂ろうと一軒の店に入った際、隣に座っていた老人に今後の夢について語った。

 

老人は盧生の話を聞くと、粥が炊けるまでまだ時間があるから少し眠るといいよ、と言って持っていた枕を貸してくれた。

 

枕は使い心地が良く、すぐに眠りに落ち、夢を見た。

 

夢の中で青年は地位や名誉や財産、それに美しい妻と子供に囲まれて大きな屋敷に住んでいて、数十年にわたる波乱万丈の成功物語を見た。

 

『お粥が炊けましたよ』という店主の声に夢から覚めた盧生は、ああ、すべては夢だったのか、人生の成功など所詮、一瞬の儚い出来事であると悟り、故郷へ帰って行ったという話である。

 

話、変わって。

 

豊臣秀吉の辞世の和歌は、『露と落ち 露と消えにし わが身かな 浪速のことは 夢のまた夢』だそうだ。

 

自筆で書いたものが残っているので、本人の作のようであることに間違いないようだ。

 

どちらも『人生なんて儚いものだよ』ってことだが、盧生と決定的に違うのは秀吉の場合、実際にお百姓さんから関白にまで大出世している。

 

夢は覚めてしまうものだが、秀吉のように現実と戦い、人生を切り拓いた人間と盧生とは根本的に違う。

 

したがって、実現もしていない『夢』を見るより『もっと、現実の中に生き、現実において成功を求めよ』ということなのだろう。

 

なーんて、ね。

 

僕は仕事柄、隔週で昼勤と晩勤を繰り返していて、昼勤の際の起床は午前3時である。

 

少し目覚めて、まだ寝ていたいなぁと微睡の中、どこからか『今日は出勤しなくてもいいんだって、まだ寝ていてもいいらしいよ』と聞こえてきた。

 

『えっ、本当?』

 

よし、ゆっくり眠れるんだと思った僕は、布団に深くくるまり、さて、今日は何をして過ごそうかなどと思いを巡らせていた。

 

そんな時、何か騒がしい音がして目を開けると、遮光カーテンで閉ざされた寝室では枕元の携帯のアラームが響き、闇に浮かび上がった画面には『3:00』の文字が滲んで見えた。

 

『あれ、今日はお休みのハズでは?』と思ったが、アラームは鳴り止むことを知らず『ああ、夢だったんだ』と気付いた。

 

どこか遠くに行っていた意識が僕の脳内に戻ってきた気がして、我に返ってアラームを止めた。

 

気持ちを切り替えて暖かな布団から重い身体を起き上がらせることは、そんなに簡単なことではなかった。

 

 

 

さあ、お仕事始めましょうか。


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